代表詩 『夜の天使たち』
10時をすぎるバスで
ランドセルやカバンを持った
あどけない天使たちの前に立つと
とうに消えたはずの翼が
遠い原っぱの風景を運んでくる
野っぱらに沸きかえるてんとうむしの声
蝶の羽ばたき
松ぼっくりをころがす風の音
風と握手した手はあかぎれ
つぎはぎだらけの服は土ぼこりと格闘し
膝から下は跳ね水でびしょびしょ
夕方になれば ズックを飛ばしてコウモリを追う
地べたを離れるぐらいわけはない
翼なんかなくたって
そんな履歴らちもないか
大人の世界の行方がわからない
どんな鏡も定点を結べない
空と地の境界が決まらないから
天使たちも窒息する
たくさんの 素晴らしいものを見る
じぶんの色を瞳の画布に絞りだす
そんな
よろこびはどこ
子供たちの寝顔をのぞきこむ
前頭葉を締めつける
不安や孤独とは裏腹に
髪の毛のあいだから
ほのかな血と汗と葉っぱの匂いが
鼻先をかすめてゆく
天使たちが息を吹きかえして
翼のサビをひと払い
風の匂いを呼び戻すかな